大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和54年(し)25号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

申立人の抗告趣意のうち、憲法違反をいう点の実質は、単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本事案に適切でなく、その余は、すべて事実誤認、単なる法令違反及び量刑不当の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。

なお、一件記録によれば、(一) 申立人は、昭和五二年九月二九日に名古屋高等裁判所金沢支部において公務執行妨害、傷害被告事件(以下「本件」という。)につき懲役八月の判決言渡を受け即日上告したが、昭和五三年九月二二日に右上告は棄却され同月二九日に右懲役八月の刑が確定したこと、(二) 右確定当時、申立人は、本件に関し拘禁されていなかったが、当裁判所係属中の常習累犯窃盗被告事件と福井地方裁判所係属中の公務執行妨害、傷害被告事件とに関してそれぞれ勾留されており、刑事被告人として福井刑務所に在監中であったこと、(三) 同年一〇月一一日に、名古屋高等検察庁金沢支部検察官(以下「検察官」という。)は、福井刑務所長に対し右裁判の確定の日(同年九月二九日)を刑期の起算日とする懲役八月の刑の執行を指揮し、右指揮は翌一二日前記刑務所長に伝達され、同刑務所長は即日刑の執行に入ったこと、(四) ところが、昭和五四年一月二二日になって、検察官は、本件裁判の確定当時申立人が本件に関して拘禁されていなかったことを理由に、先にした刑の執行指揮の刑期の起算日を右執行指揮が前記刑務所長に伝達された同年一〇月一二日とする旨訂正の措置をとったこと、が認められる。

ところで、刑法二三条は、自由刑に処する裁判を受けた者が、当該事件に関して拘禁されている場合には、その裁判確定の日から刑期を起算する趣旨の規定であって、当該事件に関して拘禁されていない場合には、たまたま他事件に関し拘禁されていても、同条一項の適用はない、と解するのが相当である。

これを本事案についてみると、前記認定のとおり、申立人は、本件の裁判確定当時、他事件に関し勾留されて福井刑務所に在監していたもので、本件に関しては拘禁されていなかったのであるから、検察官が先にした、刑期の起算日を本件裁判の確定日まで遡らせた刑の執行指揮は、刑法二三条の法意に反するものといわざるを得ない。そして、検察官のした右の訂正措置は、現実の刑の執行開始に照応するものであって、申立人に対し実質的な不利益を課したと認めるに足りる特段の事情のない本事案においては、刑訴法五〇二条にいう不当な処分とまではいうことができない。

そうすると、検察官の右訂正の措置を相当と判断して申立人の異議申立を棄却した原原決定を是認した原決定は正当であり、所論のような違法はない。

よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例